ゲーテ詩集 生田春月訳





鬼ごつこ


おお、かあいらしいテレエゼよ!
おまへの目の開いてゐる時は
どうして直ぐそんなにきつくなる!
目かくしされてゐる時に
おまへは素早くわたしをつかまへた
そしてなぜまた丁度わたしをつかまへたのか?

おまへはあてでツぽうにわたしをつかまへて
しつかり握つてはなさぬので
わたしはおまへの膝に仆れた
目かくしが取られてしまふかと思ふと
もう嬉しさは無くなつた
おまへはこの盲目を素気なくつツ放した

彼れはあちこち手探りをして
変な格好をするものだから
みんなはいろいろからかつた
おまへが愛してくれぬなら
かうしてわたしは泣いて行く
いつも目をくくられてゐるやうに





クリステル


どうかすると暗い沈んだ気持になつて
わたしはすつかり滅入りこんでしまふ
けれどかあいいクリステルのところへ行くと
またすつかりいい気持になつて来る
何処へ行つてもあの人の姿がはなれない
さうしてなぜまたこんなに広い世の中で
どんなに、何処で、何時あの人が
わたしの気に入つたのかわからない

真黒ないたづら者らしい眼のうへに
黒い眉毛がついてゐる
たつた一度でもその眼を見ると
わたしの心はからりと晴れる
こんあかあいらしい口もとや
こんな頬をして娘が何処にあらう?
まあ、そのふつくらしてゐること
いくら見てゐても見あきがしない!

さうして愉快な孤独風な踊りで
しつかり彼女をつかまへながら
ぐるぐる廻り、鋭くまはる
何とも言へないそのうれしさ!
さうして彼女が熱くなつてよろけると
わたしは直ぐさまひつかかへる
この胸にまたこの腕に
まるで王様にでもなつた気で!

さうして彼女がやさしい目附で見てくれると
わたしはもう何もかも忘れてしまひ
彼女をしつかり胸に押し附けて
はげしい接吻(きす)を浴びせてやる
すると背随からかけて両足の
親指のさきまでもぞつとなる!
わたしは弱い、わたしは強い
わたしは楽しく、また悲しい!

かうした日がいつまでも続けばよい
昼は長いとは思はない –
若しまた夜分(やぶん)も一緒にゐられたなら
夜を恐れることもなくならう
わたしは彼女をぢつと抱きよせて
この恋のなやみをしづめたい
それでもこの苦悩(くるしみ)が消えぬなら
彼女の胸で死んでしまひたい!





無頓着な女


清らかに晴れた春のあさ
若くて美しくて苦労を知らぬ
羊飼ひの娘は歌ひながら行つた
その歌は野末に響いて行つた
ソララ!レララ!

テュルジスが接吻(きす)を一つゆるしてくれたなら
そこの羊を二三頭あげると言ふと
彼女は暫くふざけたやうに彼を見てゐたが
また笑ひながら歌ひつづけた
ソララ!レララ!

また他の男はリボンをやると言ひ
三人目のは心を捧げると言つた
けれど彼女は羊と同様に
心もリボンも笑ひ捨て
ただララ!レララ!






この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら

 
 
 
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓ 

Facebook Twitter Email
facebooktwittergoogle_plusredditpinterestlinkedinmailby feather

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">