Kはなおも雪のなかに立っていた。雪から足を上げ、次にまた少し前の深い雪へその足を沈める気にはほとんどなれなかった。なめし革屋とその仲間とは、Kをさっぱりと追い払ったことに満足して、たえずKのほうを振り返りながら、ほんの少しばかり開いているドアを通って家のなかへゆっくりと身体を押しこんだ。そして、Kは身を包んでいく雪のなかにただひとりになっていた。
「もしおれがただ偶然、そしてこうしようというつもりでなくここに立っているのなら、ちょっとばかり絶望するところだな」と、そんなことが彼の頭に思い浮かんだ。
そのとき、左手の小屋でちっぽけな窓が開いた。閉まっているときは、それは濃い青色に見えていた。おそらく雪の反射を受けていたからだろう。あんまりちっぽけなので、開かれた今となると、のぞいている者の顔の全体は見えず、眼だけが見えた。老人の褐色の眼だった。
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