フランツ・カフカ 城 

「こいつのいうことはもっともです。できませんねえ。許可なしではよそ者は城へは入れません」
「どこにその許可を願い出なければならないんだい?」
「知りませんが、おそらく執事のところでしょう」
「それなら、そこへ電話をかけて願い出ることにしようじゃないか。すぐ執事に電話をかけること。二人でだ!」
 二人は電話機のところへかけていき、電話をつないだ。――なんという恰好で二人は電話のところで押し合いをやっていることだろう! 外見は二人とも滑稽なくらい従順だった――そして、Kが自分たちといっしょにあした城へいってもいいか、ときいた。「いけない!」という返事がテーブルにいるKのところまで聞こえてきた。ところが、返事はもっとくわしいもので、次のようにいっていた。
「あすも、ほかのときも、いけない」
「私が自分で電話してみよう」と、Kはいって、立ち上がった。Kとその二人の助手とは、これまでは例の一人の農夫が演じた一幕を除くと、ほとんど人びとから注意を向けられていなかったのだが、Kのその最後の言葉はみんなの注意をひいたのだった。みんながKとともに立ち上がり、亭主が彼らを押しもどそうと努めたのにもかかわらず、電話機のところでKを取り巻いて小さな半円をつくった。彼らのあいだでは、Kが全然返事をもらえないのだろうという意見が優勢であった。Kは、自分はなにも君たちの意見を聞くことを要求しているのではないのだから、静かにしてくれ、と頼まないではいられなかった。



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