フランツ・カフカ 城 

第七章


 階上でKは教師に出会った。部屋はありがたいことに、見ちがえるほどになっていた。フリーダがそんなにも精出して働いたのだ。十分に空気を通し、ストーブにはたっぷり火が入っており、床はぞうきんがけがしてあって、ベッドは整えられ、女中たちの品物というあのいとわしい汚れものは、彼女らの写真を含めて、みんな消えていた。テーブルはさっきは、どちらを向いても汚らしいパン屑のちらばっているその上の光景がまるで人の眼から去らないような有様だったが、今は白い編んだテーブル・クロスで被われていた。もうお客を迎えることもできる。フリーダが朝のうちに洗っておいたらしいKのこまごました洗濯物が、乾かすためにストーブのそばにかけられていたが、それもたいして目ざわりではなかった。教師とフリーダとはテーブルのところに坐っていたが、Kが入っていくと、二人は立ち上がった。フリーダはKに挨拶の接吻をし、教師は少し身体をかがめて挨拶した。Kはおかみとの対談でぼんやりし、まだ気持が乱れていたが、これまでまだ教師を訪ねることができなかったことを詑び始めた。まるで、Kが訪ねていかないために教師のほうが待ちきれなくなって、自分のほうから訪問してきたのだ、とみとめているような詑びかただった。ところが、教師のほうは、落ちついたやりかたで、今やっと、いつだったか自分とKとのあいだには一種の訪問の約束がされていたのだ、ということをおもむろに思い出している様子だった。



この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら

 
 
 
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓ 

Facebook Twitter Email
facebooktwittergoogle_plusredditpinterestlinkedinmailby feather

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">