フランツ・カフカ 城 

 そのすぐあと、フリーダが困った顔をして上がってきた。シャツはアイロンをかけないままでもってきていた。いろいろきいても、返事もしない。気晴ししてやろうとして、Kは教師のことと例の申し出とのことを語って聞かせた。それを聞くやいなや、フリーダはシャツをベッドの上に投げ出し、急いでまた出ていった。まもなくもどってきたが、教師をつれてきていた。教師は不機嫌そうな面持で、全然挨拶もしない。フリーダは彼に、少しばかり我慢してくれるようにと頼むのだった。――どうもここへくるまでのあいだにすでに何度か頼んだものらしい。――それから、Kを引っ張り、これまでKが全然知らなかったわきのドアを通って隣りの屋根裏部屋へとつれていき、そこでとうとう、興奮して息を切らせながら彼女に起ったことを語って聞かせた。おかみは、Kにいろいろと告白させられ、その上もっと悪いことには、クラムがKと話し合うということについても折れてKのいうままに従ったのに、それで手に入れたものといえば、彼女のいうところによるならただ冷たくて、しかも率直でないことわりばかりだったので、それにすっかり腹を立ててしまい、もう自分の家にはKは置いてやらないと決心したということだった。もしKが城と関係があるなら、それを早くぞんぶんに利用したらいいでしょう。そして今日のうちにでも、たった今でも家を出ていってもらいたい。また直接役所の命令を受けてやむをえないのでもなければ、もう自分は二度とKをこの家に泊まらせはしない。といっても、おそらく役所の命令で泊めなければならなくなることもないだろう。というのは、自分だって城とかかわりがあり、それを生かすことだってできる。それに、彼はだいたい亭主のだらしなさのためにこの宿に入るようになったので、家を出たって全然困りはしないのだ。だって、けさも自分のために支度されている寝場所のことを自慢したんだもの。そんなことをいったという。フリーダはここにいてもらいたい。もしフリーダがKといっしょに引っ越しでもするなら、おかみはとても不幸になることだろう。今も下の台所でそのことを考えただけで泣きながらかまどの前にくずおれてしまった。かわいそうな心臓の悪いあの人が! でもおかみとしてはそれ以外にどんなふるまいができるだろう。今では、少なくとも彼女の頭のなかでは、まさしくクラムの思い出の品の名誉に関することなんだから。で、おかみのほうはこんな有様だ。フリーダとしては、Kがどこへいこうと、雪のなかだろうと氷のなかだろうと、もちろん、Kのいくところへついていくだろう。そのことについてはもちろんこれ以上くどくどいう必要はない。でも、自分たち二人の状態はいずれにしてもよくはないのだから、自分は村長の申し出を大悦びで歓迎した。それはKにとってはふさわしくない地位であろうと、それでもそれは、はっきり強調しているようにただ一時的なものではないか。これで当分のあいだ時間がかせげるし、たとい最終的な決定が都合悪いように下ろうとも、ほかの口がたやすく見つかるだろう。こんなことをフリーダはいったが、もうKの首にかじりついて、最後に叫ぶのだった。



この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら

 
 
 
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓ 

Facebook Twitter Email
facebooktwittergoogle_plusredditpinterestlinkedinmailby feather

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">