「消えろ!」と、Kは叫んだ。「せっかくやってきたのに、なぜステッキをもってこなかったんだ? いったい何を振って君たちを家へ追いもどしたらいいのだ?」
二人はバルナバスのうしろに隠れたが、それほど心配そうでもなく、自分たちを守ってくれるバルナバスの左右の肩の上にランタンを置いた。むろんバルナバスはそれをすぐ振り落した。
「バルナバス」と、Kはいった。バルナバスが明らかに自分を理解していないことが、彼の心を重くした。また、無事なときには彼の上衣はあんなにきれいに輝いているのに、事態が深刻になると、なんの助けにもならず、ただ黙って反抗しているように見えることも、そうだった。そんな反抗にはくってかかるわけにもいかないのだ。というのは、彼自身は無抵抗なのだが、ただ彼の微笑だけが輝いているのだ。ところがそれも、天上の星がこの地上の嵐をどうにもできないように、なんの役にも立たないのだ。
「見たまえ。クラムが私に書いてよこしたのだ」と、Kはいって、手紙を彼の顔の前にもっていった。「あの人はまちがった知らせを受けているんだよ。私はまだ土地の測量の仕事なんかやっていなかったし、二人の助手がどのくらいの値打があるものかは、君自身が見るとおりだ。そして、やっていない仕事は、私もむろん中断なんかできるはずがないし、けっしてあの人の怒りなんかひき起こすこともできない。どうしてこの人に多としてもらうことなんかあるだろう。そして、安心してなんかいられるはずがないよ」
「私がそのことを伝えてさしあげましょう」と、バルナバスがいった。彼はKのしゃべっているあいだじゅう、手紙に眼を走らせていたが、そうかといって彼はその手紙を全然読めるはずがなかった。というのは、手紙を顔のすぐ前にもってきているのだった。
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