フランツ・カフカ 城 

 Kはじりじりしてきて、いった。
「おかみさん、あなたは私がもう別な宿を見つけたかって、私にきくようにいいましたね?」
「きくようにいったですって?」と、おかみはいった。「いいえ、それはまちがいです」
「でもご主人がたった今、そのことを私にきかれましたよ」
「きっとそうでしょうね」と、おかみはいった。「わたしはあの人とやり合っているんですよ。わたしがあなたをここに泊めたくないと思ったときには、あの人はあなたを引きとめましたし、今、あなたがここに泊っていらっしゃることをわたしがうれしく思っていると、あの人はあなたを追い出そうとします。あの人はいつでもこんな調子なんですよ」
「それではあなたは」と、Kはいった。「私についてのお考えをそんなに変えてしまわれたのですね? 一時間か二時間のうちにですか?」
「わたしの考えを変えたわけじゃありませんわ」と、また弱々しげにおかみはいった。「手を渡してちょうだい。そう。それじゃあ、なんでも正直にいうって私に約束して下さいね。わたしもあなたに対しては正直にいうことにします」
「いいです」と、Kはいった。「でも、どちらから始めるんです?」
「わたしからよ」と、おかみがいった。Kの機嫌を取ろうとしていっているようには見えず、自分のほうからしゃべりたがっているように見えるのだった。



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